時はロルフさんたちが部屋を出て行ったすぐ後まで遡ります。
ロルフさんたちがお話をするために出てっちゃったもんだから、僕はやる事なくって今度買うお家はどんなのかなぁって考えてたんだ。
そしたらさ、そんな僕にお姉さんたちのリーダーのキルヴィさんが話しかけてきたんだよね。
「ルディーン君、本当によかったの?」
「なにが?」
「何がって、私たちを借金奴隷にしないためにって、多くのお金を使わなければならなくなった事よ」
キルヴィさんはね、自分たちが奴隷にならなくてもいい代わりに、僕がいっぱいお金を使うのはやっぱりおかしいよって言うんだ。
でもね、僕はそんなの別にいいよって思うんだよね。
「キルヴィさんたち、僕がお金使わないと大変なんでしょ? だったらいいよ」
「でも、流石に私たちの借金より多くのお金を払わせるのは……」
「う〜ん。そうかもしれないけど、僕、お金なんていらないからなぁ」
僕がそう言うとね、キルヴィさんはすっごくびっくりしたお顔になっちゃったんだ。
でもね、僕は本当にそう思ってるんだよね。
「あのね、僕、ちょっと前まではお金を見た事が無かったんだよ」
「お金を見た事が無かった?」
「うん。だってさ、僕の住んでる村は、お金を使うとこ無いんだもん」
イーノックカウに住んでるキルヴィさんはお金を見た事がないって聞くとびっくりするかもしれないけど、グランリルの村はみんなで働いてみんなで生活してるでしょ?
そりゃあ近くの村やイーノックカウにお買い物に来ることはあるよ?
でも普通に生活するだけだったら、みんなお金なんて使わないんだよね。
「でも、それじゃあ食料とかを手に入れる時はどうしてるの?」
「僕んちだとお肉は森に取りに行ってるし、お野菜とかパンに使う麦とかは自分ちの畑で作ったり、近くの森で獲ってきた魔物のお肉と交換したりしてるよ」
僕んちはこんな感じだけど、村にはいろんなお仕事してる人がいるよね?
だから自分ちでお野菜を作ったり森に狩りに行けない人たちは、お仕事をした分だけ村からお金や必要なものをもらって生活してるんだ。
「なるほど。村全体で助け合って生きているって訳ね」
「うん。でもね、僕は飲まないから知らなかったんだけど、お酒とかは村でも自分のお金で買わないとダメなんだって」
お酒はね、飲むお家と飲まないお家があるから自分でイーノックカウまで買いに行くか、村のお使いで買って来たやつをお金を出して買わないとダメなんだって。
でも僕んちはお父さんがよくイーノックカウに魔物の素材を売りに行ったりしてその時買って帰ってきてたもんだから、ちょっと前に教えてもらうまで知らなかったんだよね。
その他にも、前は甘いお菓子とかも村のお使いのついでに買ってきて売ってたそうなんだよ。
でも今は僕んちでパンケーキやかき氷を食べられるようになったでしょ?
あれの材料費は村のお金から出てるもんだから、今は誰も買わないからって売るのをやめちゃったんだってさ。
「話を聞いてる感じからすると、確かにお金がいらない生活をしてるみたいね」
「うん、そうだよ」
「でも、待って。いくら村でも、魔道具は必要でしょ? 魔道コンロは無いにしても、火をつけるための魔道具はいるだろうし、その他にも狩りに行くのなら重さ軽減の魔道具だっているじゃないの」
「大丈夫だよ。だって僕、魔道具作れるもん」
これを聞いたキルヴィさんは、またすっごくびっくりしたお顔になっちゃった。
「魔道具、作れるの?」
「うん。魔石を使っただけの簡単のだったらいっぱい作った事あるし、今バーリマンさんに魔法陣の使い方も教えてもらってるから、魔法を使う魔道具も簡単なのだったら作れるんだ」
そう言えば村の魔道具も、前は壊れたりした時はイーノックカウまで修理に持ってったり買ってきたりしなきゃダメだったんだよってお母さんが言ってたっけ。
でも今は僕が全部直しちゃうもんだから、それにもお金を使わなくなったんだって。
だから余計に、今は村でお金を使う事はなくなっちゃったそうなんだよ。
「いっ、いろいろな事ができるのね」
「うん! でもね、まだちっちゃいからって、村の近くにある森には一人で行っちゃダメって言うんだよ」
僕、もう一角ウサギとかビックピジョンとかなら一人で簡単に狩れるんだよ。
それにね、探知魔法があるからブラックボアとかの強い魔物がいたらすぐに解るでしょ?
だから僕、村の近くにある森だって一人で狩りに行っても大丈夫だと思うんだ。
「でもさ、お父さんがイーノックカウの近くの森には弱っちい魔物しかいないから、あんまり奥の方に行かないんだったら一人で行ってもいいよって言ってくれたんだ」
「えっと……確かに、グランリルの人たちからしたら、イーノックカウの森は弱い魔物ばかりでしょうね」
あれ、なんでだろう? キルヴィさん、なんか変な顔してる。
でも弱っちいのしかいないってのにはそうだよねって言ってるし、まぁいいか。
「僕ね、イーノックカウにお家を買ったら、いっぱい来て森でいっぱい狩りをしようって思ってるんだ」
今まではロルフさんちに迷惑をかけるからって、お母さんがあんまり行っちゃダメって言ってたでしょ?
でも今度からは僕んちにジャンプの魔法で飛んでけるようになるから、いつでも来られるようになるよね。
「だからキルヴィさん。お金をいっぱい使う事なんて気にしなくていいんだよ。だって僕、お家買わないと狩りに来れないんだもん」
「でも、それは宿を取ってもできる事でしょ? そのために大金を使わせるのは……」
「もう! お金なんてなくってもいいから大丈夫なのに」
こんだけ言ってもキルヴィさんは、まだほんとにいいの? なんて言ってるんだよ。
僕がいいって言ってるのに、なんでかなぁ?
そう思って困ってると、ちょっと離れたところにいたボルティモさんが、僕たちの話に入ってきたんだ。
「ルディーン君、そうは言っても流石に大金だから気にするなと言ってもすぐには無理だと思うよ?」
「え〜、でもほんとに大丈夫なんだよ?」
「ああ、それは解ってるよ。なにせ治癒魔法を使うのにクラウンコッコの魔石を、何の躊躇もなく使っていたしな」
ボルティモさんはね、普通だったら初めて会った人のおケガを治すために、あんな高いものを使おうだなんて考える事は無いんだよって教えてくれたんだ。
「ルディーン君からしたら、森で狩った魔物からタダでとれたものだからって事なんだろうけど、街に住む俺たちからすると考えられない話なんだ」
「そうなの?」
「ああ。街では何をするにもお金がいるからな。たとえただで手に入れた物であっても、高く売れるものなら赤の他人のために使おうなんて決して考えないぞ」
ボルティモさんはね、僕にそう言うと今度はキルヴィさんの方を見てニカッて笑ったんだ。
「そう考えると、ルディーン君が本当にお金に興味がないって事が解るだろう?」
「えっ!? ええ、そうですね」
「街に住む俺たちとルディーン君とでは、考え方が根本的に違うんだ」
ボルティモさんはね、自分たちの考えを僕に押し付けてはダメだよって。
「ルディーン君にとっては、ギルド預金の中に金があるよりこの街に家がある方がいいんだ。それを自分に罪悪感が降りかかるからと止めるのは、やはり間違ってるんじゃないかと俺は思うけどな」
「……確かにそうですね」
ダメだよって言われたキルヴィさんは、しょぼんとしてうつむいちゃったんだ。
でもね、
「そんな顔しない。それが解ったのなら、君は笑顔でお礼を言えばいいんだ」
ボルティモさんがそう言うと、顔を上げてそうですねって。
そしてニッコリとほほ笑むと、僕にこう言ったんだ。
「ルディーン君。私たちを助けてくれて本当にありがとう」
大人たちはルディーン君ならこんな金額、簡単に出せると知ってますよね。
でもキルヴィさんからすると、いくらそう言われても納得いくものではありません。
なので大人たちがいなくなったところで、ルディーン君にそんな大金、出さなくてもいいんだよって言い出しました。
でもルディーン君はお金の価値ってものが基本的に解っていない上に、言われた金額が大金だと言う意識も無いんですよね。
なにせ今回かかるお金は、前に受けたブレードスワローの依頼報酬とその素材の売却益だけで全部払えるよとルルモアさんたちが話していたのを聞いているのですから。
まぁ実際のところ、本当にルディーン君からするとたいしたお金じゃなかったりするんですけどね。
なにせ技術大全に載った報酬だけでも、毎月1000万セント(金貨1000枚)入ってくるのですからw